温もりの連鎖

Nami sensei

2017年12月06日 11:09



 無我夢中で走りました。
バイクで走っていると、前を走っていたバイクからポーンと転がり飛んで来たポーチ。車も何もいない道路だったので、次の車が来るまでに慌てて拾ってバイクを追いかけました。

 幸い数百メートル先で信号待ちをしていた方に『すみませーん』と声をかけ、これ、違いますか?とポーチを見せたら、ものすごく驚いた顔とホッとした顔、喜びの表情、いろんな表情がまぜこぜになった年配男性が『うぁ〜、助かりました〜』と。何度も御礼を言って走って行かれました。

 ここで私が驚いたのは、自分の親切心…ではありません。
とっさに動いたその途中のことを全然覚えていないんです。ポーチが飛んできた記憶の次は、男性の笑顔。
本当に無我夢中だったんです。ポーチが飛んで来た時どんな風に思ったのか、どんな風にポーチを拾ったのかが抜け落ちているんです。

 そこでふと思い出しました。
二十数年前、私が博多駅前で交通事故に遭った時、倒れた私がスカートをはいていたからか、サッと自分の背広を脱いで私の腰にかけてくれた方がいらしたこと。自分のアタッシュケースを私の頭の下にサッと入れてくれた方がいらしたこと。救急車に乗せられるまでずっと御自身の物を私に貸してくださったその方に、私は未だに御礼が言えていません。でもずっとずっと忘れたことがありません
何の手柄もなく、褒められることも認められることもなく、でもただ目の前の人のために自分に出来ることを…とっさにとった行動が、その後数十年、いや一生心を温め続ける

 御礼を言いたいというのは、私の願いですが、でもこうして自分が人のために何かをして喜ばれた時、いつもその人を思い出します。名前はもちろん、顔も年齢も何も分からない誰かからいただいた温かい気持ちに、少しでも御礼が言えた様な気がするのです。

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